『ウァルス』2009年12月26日 12時11分13秒

〔題名〕Varus
〔著者〕Iris Kammerer
〔ページ〕462ページ
〔出版社〕Heyne
〔発行年月日〕2008年10月
〔ISBN〕978-3-453-47089-7
〔価格〕8.95ユーロ

 ことし2009年は、トイトブルクの森の戦いから2000年という記念の年。その現場として有力視されているドイツ北西部のカルクリーゼを中心に、さまざまな催しがあったようです。私も行きたいと思っていたのですが、いろいろあって断念。せめて関連本でも読もうと買ったのが、この長編小説です。

 紀元前15年にローマに征服されたゲルマン諸部族の若者たちは、ローマ軍に組み込まれました。ケルスキー族出身のアルミニウスもその一人。彼らは被征服者でしたが、教育を授けられ、ローマ人とともに戦場に赴き、戦功はきちんと評価されていました。ところが、紀元9年、アルミニウスはゲルマン諸部族をまとめ上げてローマに戦いを挑み、勝利を収めたのです。

 この裏切られたローマ軍の総司令官がプブリウス・クインクティリウス・ウァルス、つまり題名のVarusです。この戦いを題材にした小説はいくつか読みましたが、本書のようにローマ側だけの視点から描かれたものは見たことがありません。アルミニウスたちゲルマン人の動向は、ウァルスたちローマ人が見聞きしたことだけが描写されています。つまり、ゲルマン人の心情は明かされないのです。読者はローマ人とともに、ゲルマン人の動きが何だか変だけど何が起こっているかわからない、そもそも何かが起こっているのかどうかもわからないという混沌の中に置かれます。史実としての成り行きはわかっているのに、はらはらしました。読んでよかった♪

マリア・テレジア・パラディス ―モーツァルトと同時代に生きた有名音楽家―2008年12月31日 17時58分17秒

〔題名〕Maria Theresia Paradis
    Mozarts berümte Zeitgenossin
〔著者〕Marion Fürst
〔ページ〕405ページ
〔出版社〕Böhlau Verlag Köln Weimar Wien
〔発行年月日〕2005年
〔ISBN〕3-412-19505-7
〔価格〕24.90ユーロ

 コブレンツ・リンダウ大学で音楽学講師を務める著者による、マリア・テレジア・パラディス(1759-1824)の評伝です。

 私は一時期ヴァイオリンを習っていたのですが、そのころに買った小品集に彼女作曲の「シシリエンヌ」がありました。ゆったりとした優しい曲で、聴くとふわふわした気分になります(弾いたこともありますが、あまりのできの悪さにくらくらしました)。派手に取り上げられることはありませんが、ヴァイオリンだけでなくチェロやハープなどのバージョンもあるし、アンコールピースとして好まれるので、聴いたことがある方は結構いらっしゃるんじゃないでしょうか。

 本書サブタイトルにあるように、パラディスはモーツァルトの同時代人で、盲目の女性音楽家としてヨーロッパ中に名を知られた存在でした。でも、今では「シシリエンヌ」を作曲した人としてかろうじて名前が残っている程度だとか。著者は、さまざまな資料を吟味して、オーストリア皇后マリア・テレジアが彼女の名づけ親だとか、マリア・テレジア・フォン・パラディスという名が示すように彼女は貴族の出だとかいう伝説や、近年言われるようになった「シシリエンヌの作曲者は別人」説に反論しています。そして、すばらしい記憶力で暗譜した数々の曲を弾きこなし、多数の楽曲を生み出し、少女のための音楽学校を設立して指導に当たるという超人的な活躍ぶりを見せるパラディスと、幼いころに視力を失った娘のたぐいまれな音楽的才能を認めて生かすことに尽力したその両親やパラディス家の友人たちの交流を、手紙や当時の新聞記事を通して描いています。

 動物磁気催眠術で有名な怪しい医者フランツ・アントン・メスマーによる視力回復療法とか、パラディスを主人公にした怪しい戯曲や映画などの紹介とか、そんなエピソードもてんこ盛り。生誕250周年となる来年には何か催し物があるかも、その前にちょっと予備知識を仕入れておこうと思って読み始めた本書ですが、ちょっとどころか、すっかり満腹になりました。

『崇拝者』2008年09月05日 22時19分48秒

〔題名〕Der Verehrer
〔著者〕Charlotte Link
〔ページ〕511ページ
〔出版社〕Goldmann
〔発行年月日〕1998年
〔ISBN〕978-3-442-44254-6
〔価格〕9.95ユーロ

 Charlotte Linkはベストセラーリストでよく見る名前なので、ある本屋さんの洋書バーゲンセールにこれが出たとき、ものは試しと購入してみました。私が買ったのは第27版ですよ。すごい人気。

 主人公はレオナという30代の女性。恋人ができたからと家を出た夫と離婚話を進める間に、彼女自身も別の男性と恋に落ちる。同じころ、ある森で若い女性の惨殺死体が発見される。

 というのがものすごく大ざっぱなあらすじで、分類すればサイコホラー小説ということになるのでしょう。この著者について「ミネット・ウォルターズも嫉妬するだろう」と評する向きもありますが、この作品に関してはそうは思えません。意外性に乏しいんですよ(だから、ネタバレになりそうで、あらすじもあまり書けない)。でも、文章はおもしろい。特に前半は、電車を乗り過ごしそうになるほど惹きつけられました。あと何冊か買ってあるので、期待を持ち越しておきます。

 ところで、登場人物の誰一人として携帯電話を持っていないんです。1台あればそんな苦労をしなくて済むのにという場面が結構多くて、作品発表からたった10年でずいぶん世の中変わったんだなあとしみじみ思いました。

ヒルデガルトの歌2008年04月04日 21時52分20秒

〔題名〕Hildegards Lied
〔著者〕Petra Welzel
〔ページ〕443ページ
〔出版社〕Fischer
〔発行年月日〕2007.02
〔ISBN〕978-3-596-16395-3
〔価格〕8.95ユーロ

 ヒルデガルトは、思慮深く、鋭い観察眼を持つ貴族の娘。ある日、彼女がかわいがっている鳩にとんでもない仕打ちをした男が婚約者であると聞かされてショックを受け、屋敷を飛び出して湿地帯に迷い込んでしまう。沼でおぼれそうになった彼女は、十字軍騎士とファティマ朝の姫君を両親に持つエーリクに救出される。2人はたちまち親しくなるが、婚約者との結婚を拒んだヒルデガルトは庵で修道生活を営むよう父親に命じられる――

 ヒルデガルト・フォン・ビンゲンは、女子修道院を設立し、薬草学に秀で、本を著し、作曲もした、12世紀ドイツのスーパーウーマンです。交友関係も、ローマ教皇エウゲニウス3世、クレルヴォーのベルナール、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世(バルバロッサ)等と華やか。幻視体験に基づく著書と作曲した宗教曲から、日本ではスピリチュアル界や音楽界で知られているようです。

 彼女を主人公にした映画"Vision"が来年ドイツで公開されるというので、それに合わせてこの本(映画の原作ではありません)を翻訳しようと出版社に売り込んだらどうかなとひそかに企んでいましたが、ヒルデガルトとエーリクの関係がどうも好みじゃないので、やめました。でも、ドイツのアマゾンでは平均★★★★の評価を受けているので、ツボにはまる人にとってはスリリングなラブストーリーなのだと思います。

ゲルマン・ザーガ4/5 『ラヴェンナのゲルマン人』2007年10月15日 23時00分20秒

〔題名〕Die Germanen von Ravenna
〔著者〕Joerg Kastner
〔ページ〕445ページ
〔出版社〕Bastei Luebbe
〔発行年月日〕2002
〔ISBN〕3-404-14210-1
〔価格〕7.90ユーロ

 ゲルマン・ザーガ5部作の第4作。

 第2作"Der Adler des Germanicus"で繰り広げられたゲルマン人とローマ人の戦いは、勝者も敗者もないものでした。ゲルマン人側はとにかくローマ人を撤退させることができましたが、その際、族長アルミニウスと氏族長トーラクそれぞれの妻がローマ軍に連れ去られてしまい、いわば痛み分けとなったのです。本書は、彼女たちを救い出すためにラヴェンナに赴いたトーラクの冒険譚です。

 「族長」と「氏族長」について一言。

 基本的に王を持たないゲルマン諸部族は、戦争の際は族長(Herzog)を選び、彼の指揮のもとで戦います。また、1つの部族には幾つかの氏族(血族)が属するのですが、そのそれぞれの長が氏族長(Fuerst)です。

 トーラクは雷神ドナーを祖先神とするドナー氏族の氏族長で、アルミニウスは鹿をトーテムとする鹿氏族の氏族長であると同時にケルスキー族全体の族長です。彼らの父親も同じ役割を果たしていましたが、族長も氏族長も世襲の身分ではないので、2人はあくまでも選挙によってその任についたのです。ただ、これはゲルマン人が民主的だったからではなく、みんながみんな「オレ様」だったからみたいです。